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ロンドン在住16年目
編集者歴23年のマダムが 旬のロンドン情報を お届けします♪ ロンドンのガイドブック 『歩いてまわる 小さなロンドン』 を出版しました。 ライフログ
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先日、BBC4でアーティストの篠原有司男氏と妻の乃り子さんの日常を描いたドキュメンタリー「Cutie and the Boxer」を見た。 Kがおもむろにチャンネルを合わせたので、前知識もなく、何となく見始めた。最初はニューヨークに住む貧乏なアーティスト夫婦の話だと思った。番組が始まってすぐは、彼らが何者なのかが明かされない構成になっていたのだ。 しばらくして夫のほうが作ったモーターバイク彫刻が篠原有司男の作品のように見えたので、「んん?」と思っている間に、今度はペイントをべったりと付けたボクシング・グローブでキャンバスを殴りつけ始めた。そこでようやく、その男が御年80歳になろうという元祖アクション・ペインティング世代の篠原有司男その人だと気づいた。 このドキュメンタリーを見るまで、篠原有司男氏にあんな美しい、才能豊かな奥様がいるとは全く知らなかった。親子ほども年が離れたご夫婦の非日常な「日常」。このドキュメンタリーでは、二人の夫婦生活40年の歴史を「過ぎ去った嵐の後の凪の中の嵐」を見るように振り返りつつ、アーティスト同士という夫婦間の心理的な相克と強い絆などがとても誠実に表現されていた。後で知ったことだが、サンダンス映画祭で賞をとったというのも頷ける。 「篠原有司男さん、まだ元気で活躍されてるんだなぁ。そういえば・・・」。氏を見たことをきっかけに、私の記憶は突然、20年前の大昔に引っ張られていった。神保町で書籍編集をしていた頃のことだ。 就職先が小さな文芸出版社だったおかげでいろいろな本を担当させてもらえた。美術評論家である日向あき子先生の『ポップ・マニエリスム』もその一つ。私はその原稿を読んで、初めて篠原有司男という破天荒なアーティストを知ったのである。 日向先生の本を編集していた頃は、川崎の柿生にあった先生の自宅に何度かお邪魔した。先生は田舎からポっと出てきた二十歳ちょい過ぎの小娘にとても気さくに接してくださり、ときにワインと軽食をごちそうしてくださった。コルクを開けてしばらく空気に触れさせておくと美味しくなる赤ワインもある、ということを私が知ったのは、日向先生からだ。 前述のドキュメンタリーを見て、ふと日向先生はどうしておられるのかな、とネットで調べてみると、なんと十年以上前に永眠されていた。先生への追悼文その他を読んでいると、やはり編集者にとても慕われていた方なのだと改めて知った。心からご冥福をお祈りしたい。 私が勤めていた沖積舎という出版社は俳句や短歌に強く、また文芸、美術関係の本を数多く扱っているが、名著の復刻でも知られている。駆け出しの編集者だった私が檀一雄全集の復刻を担当できたのも、小さな出版社だからこそ。社長と一緒に石神井にある檀邸まで、未亡人であるヨソ子夫人にご挨拶に行ったときのことは、今でもはっきりと覚えている。 ヨソ子夫人は、はっとするほど美しいオーラをまとった方で、その周りだけふわりと清浄が取り囲んでいる、そんな女性だった。一度目に社長と伺ったときにご挨拶用の菓子折を持っていったのだが、二度目に一人でお邪魔したとき、道中に手みやげが必要なのではとパニックになり、なんとか自分で調達したお菓子を持って行ったら、「あら、前回ご挨拶はしていただきましたのに・・・」と言われて、あぁ、手みやげって最初の挨拶のときだけでいいのだ、と学んだのも、このとき。友達の家に遊びにいくわけではないのだから。 檀一雄の文友であった俳人の真鍋呉夫先生には、本当にいろいろとお世話になった。檀一雄全集を出すことになったのも、沖積舎の沖山社長と真鍋先生の交流から企画されたのだと思う。この頃、真鍋先生の句集『雪女』が出版され、檀一雄全集の解説の執筆をお願いしていたこともあり、ときに真鍋先生の練馬のご自宅にお邪魔して奥様にも大変お世話になった。昔ながらの「文士」という言葉がぴったりくる、申し訳ないが私からすると「優しいおじいちゃん」のような印象だった真鍋先生。当時、おそらく80歳くらいだったと思う。私が沖積舎に在籍していた頃、すでに「生前葬」なるものをされていたと記憶しているが、先生はそれから十年以上、92歳までご存命だった。先生のご冥福を心からお祈りしたい。 キャリア的な思い出深さで言うと、『夢野久作の世界』にトドメを刺す。夢野久作は私自身、卒論で扱った思い入れのある作家であり、当時、久作に関する数少ない貴重な評論集であった『夢野久作の世界』を復刻できたことを、今でも誇りに思っている。企画はもちろん、久作研究の第一人者であり、編者の西原和海さんだ。氏の説得により、私はこの本の復刻を渋っていた久作の孫である杉山満丸さんを説得すべく長い手紙を書いた。手紙を送ってしばらく、復刻の許可を満丸さんからいただいた。のちに西原さんから伺ったところによると、私の手紙に「心動かされた」と言ってくださったそうだ。 久作への思いは今も変わっていない。日本探偵小説史上というより、日本幻想文学史上、いや、日本文学史上に燦然と輝く、人間学の巨人である。久作の作品がもっと翻訳されれば、世界の文芸史だって塗り替えかねない、と本気で思っている。今後、さらなる研究が待たれる作家の一人だ。 「Cutie and the Boxer」を見たことで、なんだかとりとめもない記憶がつらつらと引っぱりだされてとりとめもない雑文になってしまった。日向先生との思い出に記憶が飛んだ、ということもあるが、ニューヨークにいながらにして意外に昭和な生活を送っている篠原夫妻の生活風景にも、何らかの記憶が刺激されたのかもしれない。箸を使えないギュウちゃんにも笑えたしw 篠原夫妻のインパクトもさることながら、息子さんであるアレックス・空海・シノハラ氏の存在が大きく感じられた。 ネットでいろいろ見ていたら、この作品、アカデミー賞にもノミネートされたようだ。このリンクから篠原夫妻のドキュメンタリー舞台裏インタビューを読むことができるので、興味ある方はぜひ。 さて、こうやっていろいろ思い出していくと、渡英以来すっかり不義理をしている、お世話になった方があまりにも多いことに気づいて愕然としてしまう。ゆき過ぎた年月をどう埋め合わせればよいのかとんと知恵は浮かばぬが、いつかきっと「その節は・・・」とお会いして、衷心からのお礼を申し上げたいと思う。 ******* ロンドンに住む人をテーマにしたコラム 「倫敦びと彩々」を連載しています。毎月最終木曜日掲載♡ ロンドンからイギリスの田舎に出かけよう! オプショナル・ツアーの詳細はこちら♪ マダムへのお問い合わせはこちらへ☆
by vallerfish
| 2014-02-22 12:12
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